2015.6.17

裁判例のご紹介(医療・社員総会・理事の解任)

医療法人の運営方針をめぐる路線対立やトラブルが増えています。

前理事長VS現理事長、父親VS息子、同族VS非同族、改革派VS守旧派など、構図は様々ですが、意見の相違や些細な感情のもつれが日々蓄積され、ある日突然、社員総会で理事長が解任されるという深刻な事態を招くこともあります。

 

今回ご紹介するのも、そうした事例です。

 

ある社団医療法人で社員総会が開かれたところ、社員総会の招集通知に記載のない理事(理事長)の解任の動議が出されました。議長である理事(理事長)が動議を却下したものの、その理事以外の理事らによって社員総会は進行され、かつ解任動議の対象となった理事の解任の決議がなされました。この決議の有効性が裁判で争われました。

 

裁判所は、この理事会人の決議(動議)を有効なものと認めました(大阪地方裁判所平成26年9月5日判決・金融商事判例第1462号)。

 

判決要旨は次の通りです(金融商事判例より引用)。

 

『医療法人の社員総会は、その招集通知に理事の解任議案が記載されていない場合であっても、同法人の定款の記載からして理事を解任する権限それ自体を有しているところ、招集通知に記載された「監査報告書並びに関連事項について」のうちの「関連事項」には、法令、定款違反を行っている理事の解任を決議することも含まれると解される判示の事実関係の下においては、同理事の解任を決議することができる。

 

医療法人の社員総会で理事の解任決議が採択された際に議長である同理事以外の理事が議事を進行していた場合であっても、定款の解釈上、同理事が議長の職務を代行し得る余地はないが、議長であった理事において、その解任議案を採血すべきであったのに、正当な理由がなくその採決を拒絶したために議事の進行が同理事以外の理事によって進行され、かつ、議長であった理事の解任に賛成する評決が成立したと認められる判示の事実関係の下においては、議事を進行した理事が議長でなかったことを理由に決議が無効になるとは解されないから、同解任決議は有効である。』

 

この判決では、動議を出した社員らの主張が認められ、理事長は理事として解任されることになりました。この裁判は控訴されていますので、最終的な結論はまだわかりません。

 

しかし、この判決の論理では、社員総会において招集通知に記載がなくとも理事の解任が議論され、決議されることができることになります。また議長が議事を進行させていなくても、状況次第ではその他の構成員による決議が法的に有効になりえるということです。この理屈を前提とすると、医療法人を運営する理事長をはじめとした経営陣はかなりの緊張感をもって社員総会に臨む必要があるということになりますね。

 

実は、この事件は弁護士法人海星事務所の弁護士表宏機、弁護士原田謙司が担当した事件です。金融商事判例という著名な判例集に掲載されるほど法律的に難しい争点でした。また仮処分のときから裁判所の判断も二転三転したように法律専門家の評価も分かれるような微妙な事案でもありました。

 

こうした医療法人の運営をめぐる紛争やトラブルは珍しいことではなく、私たち弁護士法人海星事務所には月に何件もご相談いただいています。これまでの多くのトラブル解決実績に基づき、どの案件でもできるだけ訴訟による解決は避けて、話し合いで迅速に解決することをモットーにしていますが、なかには、訴訟による対応を余儀なくされる場合もあります。理屈ではわかっていても、感情が邪魔して話し合いがまとまらないケースもあります。

 

患者さんのために、また地域医療の担い手として、これまで果たしてきた社会上重要な役割を今後も担っていくためにも、医療法人内部での争いはなんとか話し合いで解決していきたいものですね。

 

医療法人をめぐるトラブル、ご相談は全国でも数少ない医療専門の弁護士法人である弁護士法人海星事務所まで、電話(東京03-5544-8811、大阪06-6357-1177)またはメール(お問合せフォーム)にてお願いします。

 

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