2015.5.28

裁判例のご紹介(金融商品取引法、有価証券報告書、虚偽記載)

証券取引所に株式公開している会社は事業年度ごとに事業・営業・財務諸表等を内容とする有価証券報告書を作成し各事業年度終了後3カ月以内に金融庁へ提出しなければなりません(金融商品取引法第24条)。

 

近年、この有価証券報告書の虚偽記載が問題となるケースが増えています。西武鉄道やライブドア、東芝などです。

 

この有価証券報告書に虚偽記載がなされた場合、虚偽記載により損害を受けた投資家は、有価証券報告書を提出した会社役員、監査法人等に対し損害賠償請求をすることができます。

 

この場合、会社役員等は「相当な注意」を尽くしていたこと(免責の抗弁)を主張立証できなければ損害賠償責任を負うことになります。

 

今回紹介する裁判例は、この免責の抗弁が認められた珍しい事例です(東京地方裁判所平成25年2月22日判決・判例タイムズ第1406号)。

 

事案は、売り上げを粉飾した虚偽の有価証券報告書を作成するなどして東証マザーズ市場に上場した株式会社が、その後金融庁の任意調査を契機に粉飾決算が明らかになったため、株式の上場が廃止されたというものです。この会社の株式を買った株主が会社役員らを相手に購入価格相当額の損害賠償を求めました。

 

判決は、1名の役員(取締役)に関しては、財務関連の業務に関係しておらず、取締役会提出書類だけでは虚偽記載が分からなかったこと、この役員を排除する形で不正会計処理がなされていたこと等の事情を理由に、この役員は虚偽記載について知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったものと認定しました。その他の役員については虚偽記載と相当因果関係のある損害の範囲において損害賠償責任を認めました。

 

この事案で争点となった「相当な注意」が尽くされていたかどうか(免責の抗弁の成否)については、有価証券報告書の重要性に鑑みとても厳格に判断されるため、相当な注意が尽くされていたと認定されることは非常にまれです。実務上、ほとんどのケースで「相当な注意」が尽くされていたとは言えないとして、免責が否定されていることと思います。

そのため、この裁判例はとても珍しく実務上の参考になると思われます。

 

この裁判では、弁護士法人海星事務所の表宏機弁護士と楠谷望弁護士が一部の役員の代理人を務めました。近時、有価証券報告書をめぐる不正が多くみられることから金融庁の調査も厳しく行われ、一度、粉飾決算などで不正を指摘されると、本件のように、会社のみならず、会社役員や監査法人ら関係者まで重い法的責任を負わされることになります。

弁護士法人海星事務所にも、近時、金融商品取引に関するトラブルの解決や、金融庁の検査への対応などについてのお問合せ、ご依頼が増えてきております。

 

こうした事態を招かないように、適正、健全な運営を心掛けることが重要ですが、どうしても役員らは投資家の目を気にして見栄えの良い財務諸表等の作成を目指してしまい、不正に至るケースがよくみられます。

 

日常的に、コンプライアンスを徹底し、社外の会計専門家、法律専門家の助言を受け入れることも不正防止には有効だと思います。弁護士法人海星事務所では、定期的に金融商品取引業者向けの研修セミナーの開催などを行っております。吉崎静行政書士は、金融商品取引法、登録手続、検査対応、コンプライアンスを専門とする数少ない専門家として在籍しております。

 

弁護士法人海星事務所は、金融商品取引法に精通し、金融商品取引法が関連する数多くのトラブル、訴訟を解決してきた実績があります。金融商品取引に関するご相談はいつでもお寄せ下さい。連絡先は、電話(東京03-5544-8811、大阪06-6357-1177)またはメール(問い合わせフォーム)まで。

 

 

 

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